2016年8月16日火曜日

とある素晴らしいオンラインソフトウェアにおける、シェアウエアとしての形態

この記事はこのソフトウェアに対する文句とかではなくて、ただただ”ソフトウェア開発に費やしている技術も、それのマネタイズ の方法もうまいなぁ”と思って関心している、特定のオンラインソフトウェアの話で、別に作者を晒し上げようとか、そんなつもりは全くない。このソフトウェアは対価を支払う価値は十分にあるし、作者が下記のとおりに書いていないのは意図的だと思うから、特定のソフト名はここでは書かないことにした。

某 Slack でとあるシェアウエアがよく考えられているという話をした。

そのソフトウェアは、ビデオキャプチャデバイスと組み合わせて利用するもの。プレビューのほか録画機能も持っている(名前的にはそちらが主眼なのだろう)。ただ録画機能を持つソフトウェアだが、独自の突出したコーデック部分が別配布になっている。

メインの実行ファイルが入っているソフトウェアを実行するためには、別途配布されているコーデックもインストールしておく必要がある。技術的には、そのコーデックをインストールしておかなくてもメインの実行ファイルは動作するはずだ。でも、コーデックがないと実行できないよ、とエラーを表示して、終了する。

そうするとユーザーはコーデックとして配布されているパッケージをインストールしようとする。そのコーデックは有償で、数千円と、けっこういい値段が付けられているソフトウェアだ。コーデックはシェアウエアの形態なのでレジストしなくても利用できるが、未レジストの場合にはウォーターマークが表示される仕様だ。

私は2012年にこのソフトを見つけて使い始めたけども、この作者はほんと凄いなぁと関心した。技術的にもよくできているし、稼ぎ方もうまく考えているなぁと思ったから。

過去に bt878 のテレビチューナーを使ったときはソフトウェアスタックが本当にダメだったし、 2012年に購入してから IkaLog 開発にまで活躍してきた DC-HD1 でも、ドライバがおかしいんじゃないのって死に方をよくする。今時の Windows ってそう簡単にブルースクリーンなんて出ないけど、キャプチャまわりをいじっていると、けっこう死ぬ。キャプチャまわりは絶対的にユーザ数が少ないので QA が十分にできていないんだろうなぁと推測している。 Webcam の利用数は相当数あるだろうし、そっちの問題は比較的少ないと思うと、やっぱりチップセット側のドライバの問題なんだろう。

で、ちょっと操作した瞬間にドライバが OS を道連れにするような実装が度々あるキャプチャデバイス群を使って映像を取得し、リアルタイム表示もわりと低遅延でがんばっていて、画像処理もまじめにやっていて、さらにはコーデックまで独自に提供してしまうソフトウェアがあるわけだけど、これが、コーデック以外の部分は事実上フリーソフトとして使えるようになっている。

独自形式で録画時・再生時に使うコーデック以外の機能も充実しているのでコーデック部分に課金するのはチャンスロスが大きいんじゃないかと思う人は度々いるはずだけど、これがなかなか良く考えられていると思う。なぜなら、キャプチャデバイスとの相性で起動できなかったり、映らなかったり、 OS を道連れにしてしまうような部分では課金していないのだから。課金対象は、 DirectShow 向けのコーデックとして、 OS から渡された画像データをエンコードしたり、デコードしたりして OS に返す部分だけ。ここはハードウェアが絡まないので相性問題などは発生しづらい。なので、課金したユーザが「金払っているのになんなんだコレは」と言っても、買ったのはコーデックであってキャプチャデバイスを制御するソフトウェアではない、というカラクリ。

 購入サイトには直近のレジスト数の情報がでていて、一日に10ライセンス以上、どんどん売れているように見える。このペースだと下手なコンピュータエンジニアの月給を超える副収入が生じているはず。開発者の収入は給料の倍になっているかもしれないし、そのソフトウェアの出来を思うと、本職では余裕でもっと稼いでいる人かもしれない。

巧いなあと思いつつも、ちょっとずるい気もする。なぜなら有償のコーデックを使わないと動かないような文面がサイトにあって、それがインストールされていないと、それ以外の部分も利用できない点。文面を素直にとると、多くの人は、そのソフトウェアを動かすためには有償のコーデックを買わないといけないように理解するだろう。実際にはコーデックにレジストしても、録画時のウォーターマークが消えるだけだ。録画を主眼に置いていない人はコーデックにレジストしなくても十分に使えてしまうし、他のコーデックを組み合わせて使えば回避はできる。

私も実際コーデックを買わないと使えないのかと思ったけど、とりあえずレジストせずに動かしてみて、この仕組みを理解して、ちょっと感動した。

このソフトウェア(の事実上フリーな部分)は DirectShow のほか Direct3D をはじめ各種マルチメディア系の API を駆使しているのは見ればすぐにわかるし、開発には相当時間がかかっているのがわかる。キャプチャデバイスをいっぱい持っていて、リリースにあたっては動作検証やドライバ不具合との戦いも色々しているのだと思う。また、有償提供されているコーデックも、これはこれで動かしてみるとすごい。 確証はないけど、とあるユーザの手元でにある Core2 Duo のマシンですら IkaLog を動かしながら録画ができてしまうのは、たぶんコイツのおかげなんだと思う。

ところで時々”どうして IkaLog で金を取らないのか”と聞かれるけども、 IkaLog もキャプチャデバイスと組み合わせて使うものでソフトウェアの実装レベルで互換性を全て吸収できるようなものでもないし、仕組み的に環境依存で動かないことも考えられるので、そのような場合にはサポートしきれない、また画像認識というアプローチ上100%の精度は出せないという気持ちがあった。下手にマネタイズしたら怒られるかもしれないというのも。

 Web カメラ対応をまじめに考えていたときは、高品質な Web カメラの代わりにスマートフォンに付いている高品質 CCD カメラを使え、IkaLogに画像を送信するだけの「イカログカメラ」は有償化しようと思っていた。結局、Webカメラベースでの画像認識はチャレンジが多かったので、それ自体を無くしてしまったけど。

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